東京支部 伊藤先生の ブラジル訪問記第2弾

地球の裏側で・・・2010

東京支部 伊藤 弘隆

8月27日より9月5日までの間ブラジル・サンパウロに行ってきました。昨年に引き続き2回目のブラジル訪問です。

SATOSP(サンパウロ州鍼灸学会)というブラジルで最も大きな鍼灸学会の中で8月29日、30日、31日と「長野式治療」の講演をさせて頂きました。

昨年、はじめてSATOSPで講演をさせてもらう際、やはり言語の壁がありました。しかし現地の先生方の頑張りが運を呼び込んだのか、ブラジル公認の通訳者で鍼灸師、しかも日本人という小渡良博先生とつながることができました。

今回の講演も小渡先生の協力のもと、無事に終えることができ、とても感謝しております。

3年前より、ブラジル支部の先生方が、このSATOSPにて「長野式治療」の講演をし始めたところ、刺激がソフトであること、治療の効果が目に見えてわかること、誰がやっても同じように効く再現性、そして何よりも理論に共感を頂き、たちどころにブラジルで有名になったそうです。今回講演させて頂けたのも現地の先生方の活動と長野式の魅力の賜物であります。

3日間の学会の後
ブラジル長野式の講習、実技指導などを見学させていただきました。

毎年1月から8月と、8月から翌年1月の年に2回開催されます。
対象者は鍼灸学校卒業生です。

講義は月に一度で免疫、血液、神経内分泌、筋肉、気系の5つの項目を中心に講義しています。

時間は朝8時から14時までの6時間で、毎回13~15人の生徒が受講しているそうです。

月1度の講義と並行して週に1回火曜日の朝8:00~11:00、夜7:20~10:20の3時間ずつ実技研修があります。
実技は自由参加となっており、仕事の都合などで朝だけや夜だけなどの参加も可能です。

ブラジル長野式の最も優れた点はこの実技研修の場があることです。なぜなら、実際の患者さんをモデルとして治療していることです。

患者さんには生徒が勉強のために教員指導の下、治療を行っていることを事前に説明しています。

教員の立場は、あくまで確認をする程度であり、問診から治療にいたるまで全て研修生が行っています。

治療時間は患者さん1人につき1時間と決めていますが、じっくり所見を取ったり、先生に相談したりするために1時間半~2時間くらいかかるそうです。

その後1時間、カルテに治療内容をまとめ症例検討をします。

ブラジル長野式で講師として研修生を指導されている先生方に
2つの質問をしてみました。

Q、長野式の指導についてお聞かせ下さい。

宮沢先生:
生徒が好奇心を持って授業を受けられるようマンネリ化に気をつけています。
長野式の基本処置には診断とは関係なく身体の機能を高めてくれるものがいくつかあります。決して達人レベルの技術ではなくとも、やさしい針が打てれば患者の身体が反応を示し治療家も納得することができます。

最低限基本処置をしっかりと使いこなすために、「やさしい針」を覚えてもらうように努めています。

まゆみ先生:
日本人の初学者のような謙虚さはなく、良い意味でも悪い意味でも大胆な生徒が多いです。
国民性なのか自分の技術に妙な自信すら持っている者も多いです。
「長野式で教わったとおりにやったが効かない」と基本的な技術がない者に誤解を受けないよう正確なツボの取穴、基本的な技術の習得を意識的に指導しています。

フッチ先生:
正確にツボが取れるよう意識してい指導しています。
また押し手や肩に力の入りすぎている生徒が多くいます。
施術者が緊張した状態では患者も緊張して不快な思いをしますし、施術者も無駄に疲労したり、身体を痛めかねません。
そのため、正しい姿勢やリラックスした状態で針が打てるように指導しています

Q今後の長野式についてお聞かせください。

宮沢先生:
長野式の理論は本当に良く出来ています。まるで強力な土台であり、さらなる発見や可能性を秘めていると思います。
長野式を学ぶ多くの人たちが、その可能性に気づいて欲しいです。そして多くの気づきを持った仲間を増やしていきたいと思っています。

まゆみ先生:
いまブラジルでは多くの人が長野式に興味を抱いています。
しかし基本的な治療技術がない者に、この治療法を教えてしまうことには大きなリスクがあると思っています。

ブラジル鍼灸には国家資格というものがなく、学校により授業時間も様々です。
また多くの学校が中国式の針を教えているために、針管、押し手、雀啄といった日本鍼灸の知識と技術が全く無い者も多いのです。
長野式を学ぶためには管針法を用いた繊細な技術をまず習得させなければならないと思っています。

鍼灸教育に統一性がないブラジルでは鍼灸師とはいえ大きなレベルの差があります。長野式を伝えるに値するレベルまで、どのように教育するか今後の課題と考えています。
この素晴らしい治療法が一人歩きして壊れないことを祈るとともに全力で守っていきたいと思います。

フッチ先生:
長野式の理論は初学者にはわかりやすく治療効果が目に見えてはっきりと現れます。
しかし、その奥底には沢山の知恵の宝庫が隠されています。
表面だけを見て、わかったつもりになっている治療家にはもっと心を込めて長野式を勉強してもらいたいと思っています。


 

さまざまな問題点

卒後研修の一環ともいえるブラジルの長野式勉強スタイルですが良いことばかりではないようです

第一に鍼灸学校の教育レベルに大きな差があること

これは、日本のように授業時間、年数などの基準がなく個々の学校が決定しているためです。

週末の土曜日曜に一年間勉強し、鍼灸師として臨床に立つ、なんてことも多くひどい所では中国に3ヶ月留学させて帰ってきたら鍼灸師として認めてしまうといった驚きの学校もあるそうです。

医師との関係、法律問題

多くのブラジル人医師達は鍼灸治療の効果を認めておりますが協力関係を築くのではなく、医師がやるものだと主張し、その権限を独占しようという考えを持っているようです。

そのためか2010年7月30日より法改正がありました。
鍼灸専門学校において新規入学者は認可しない。医師、看護師、薬剤師、理学療法士、心理療法士、病理学者の資格を持ったもののみが鍼灸専門学校への入学を認可する
というものです。

このような医療関係者は、個々の仕事があるために鍼灸専門学校に毎日通うことは困難です。
必然的に土日など週末のみの学校や、極力授業時間の少ない学校を選ぶこととなります。そうして技術、知識の足りないもの達が鍼灸師という免状を持ち臨床を行ってしまう。

このような形で鍼灸治療が拡がってしまうことは大きな誤解を生み患者と医師双方に不利益をもたらすことは目に見えています。

長野潔先生のお言葉に以下のようなものがあります

「21世紀の世界の医療の一環として鍼灸は不動の地位を確保するものと確信いたしております。今のようにただ単に、運動器疾患だけでなく各科領域にわたって鍼灸の本質を握られ、そして全科に渡ってその真価を発揮し、一人でも多くのご病人を救って頂きたい。それが最終の念願であり世界の鍼灸家に知っていただきたい」

各科にわたって鍼灸の本質を握る・・・

これこそが、局所ではなく人体丸ごとを治療する東洋医学の鉄則です。

特に西洋医学的な思考を持っている者が東洋医学を学び、その真価を発揮するためには片手間では非常に困難であり多くの時間と発想の切り替えが必要となります。

なお長野式ブラジル支部の代表である山田忠正先生は、この問題に対して鍼灸教育に必要なものは「人材の制限」ではなく「時間的基準」であると強くブラジル政府に訴え、現在も先陣きって抗議活動をされています。

鍼灸先進国の日本として、この問題に何か一石投じることができないものかと日々考えさせられます。

最後に

今回のブラジル訪問により多くの気づきを得ることができました。
鍼灸の様々な可能性、国によっての鍼灸の受け入れ方の違い、また日本における鍼灸教育の長所や短所。
(たとえば基礎教育基準がしっかりしていることと、卒後教育の不足など)

そして何より、長野式治療が遠い異国でも受け入れられて拡大と発展を続けていることに感動しました。

今後ブラジルは2014にサッカーワールドカップ、2016年にはオリンピックが開催されます。このような一大スポーツイベントに長野式治療で大会に貢献することを、目標に活動していきたいと思います。

また日本においては長野式を用いて卒後研修の場を提供していきたいと思います。